若干17歳のオランダの若きミュージシャン、StroomlynことAart de Graafの作品がフリーでリリースされています。元々はVitisveという名義や、本名のAart de Graafという名前で音楽を作っていたようです(おそらくは14歳くらいから。そのときのサウンドは今でも上記リンク先で聴くことができます)。そして2011年終盤から、このStroomlynという名前で音楽を作り始め、これがデビュー作となるようです。
インタールード的なM-3を挟んでラストのトラックは、ヴォーカルを活かしたひときわPopな作りになっている。幾重にも重なるヴォーカルのラインが生み出す叙情性は、ここにきてようやくChillWaveらしさを出してくるけれど、ここでもやはり例のシンセが大胆に入り込んできて、鮮やかに景色を塗りかえていく。彼のプロフィールを読めば、なるほど影響源のひとつとして、”the early 00’s trance music, eurodance”と書かれている。そういった要素と、また別の影響源である”modern electronic music like glitch-hop and chillwave”がきれいに結びついて生まれたのが、このサウンドなのだと、聴いてみると、素直に納得できる。時流にのりつつも、ユニークなサウンドだと思います。いずれにしても、まだまだ若い(悪い意味ではないです)! これから先にも大いに期待。
ラストは再びオリジナルのトラックで、サンセットビーチなChillWave。これはアムステルダムに友人といったときのことを曲にしているそうです。’An den Grachten’は訳すと’運河’。自転車で運河にそって走ったことがもっとも印象深いできごとだったそうですが、前半のさわやかな空気はなるほどサイクリングに似合わなくもない。後半のやや沈み込むような調子は何を表しているんだろう。
本作はトラックリストをみると分かるように、カヴァーソングを集めたものになっています。私が名前を知っているのは、Yo La TengoとMemoryhouseくらいなのが悲しいところですが。そんな私のように、原曲ってどんなかしら?と思う人のために、頑張りました。トラック名の横にあるアーティスト名から、原曲へのリンクを貼ってありますので、興味がある方はご覧ください。というか聴き比べた方が、楽しみがアップしますよね。
原曲を聴いてみても、どれもすばらしい。共通しているのは80年代的ともいえる、ノスタルジックなフィーリングでしょう(実際John Waiteの’Missing You’は1984年のものだけれど)。オリジナルの’Do I Sad?’などは2010年の作品のようだけれど、このレトロフューチャーな感覚はすごいですね。前情報なしに聴いたら年代を言い当てる自信がない。MemoryhouseやTeen Dazeのトラックは、形は違えど、そこで鳴らされるドリームライクなサウンドには、通低するフィーリングがある-ChillWaveという言葉でまとめられそうな。
そういったレトロフューチャーなトラックたちを、そのフィーリングを保ったまま、自分たちのカラーに塗りなおしたのが、このCrozetの”Alterations EP”というわけです。M-1の’Missig You’などを聴くと、実にエモーショナルで伸びやかなヴォーカルが披露されていて、歌に対してもまったく抵抗がないようです。続くM-2ですが、この流れの中ではYo La Tengoの存在だけ異色な気がしてしまいますが、聴くとまったくそんなことはない。原曲のAmbientで不安定な空間に、Electronicなリズムや味つけを加えることで、ハッキリとした輪郭を描き、作品全体の中に溶け込ませている。
M-3を聴いていると、どうしてもJ-Popなフィーリングを感じてしまう。Electronicな歌謡曲とでもいうような感覚は、Post-Pop/Post-J-Popと言ってもいいのかもしれない。煌びやかなシンセサウンドとダンサブルなリズム、違和感のないメロディライン。アタック力が半端ない。今作のハイライトだ。M-4は原曲のピアノをシンセに置きかえて、余白に色を塗ったようなイメージになっている。Electronicなタッチが強くなった分、原曲よりもウタモノに接近した気がします(余談ですが、上にリンクした’Caregiver’のミュージック・ビデオはオフィシャルではないと思うんですが、本当に素敵。一見の価値があります)。ラストのM-5は、わりと原曲に近い形でカヴァーされている。ドライヴするシンセと重なるヴォーカルラインが、意識をどこか一点に向けて収斂させていく、from here to anywhereな感覚は、ラストに相応しい。
ということで、今作、彼らの魅力を知らしめるには十分な、第一作目だったわけですが、このあとに発表しているオリジナル作品”We’ll Be Gone By Then”がまたすばらしい! とりあえずストリームで聴けますので、上記のbandcampかSoundCloudへ飛ぶべし! 気に入ったら購入も可能なようです!
たとえば以前の”Time Doesn’t Exist, Clocks Do”は、ループ感やサウンドコラージュの感覚が強く、またリズムに勢いのあるものが多い。ジャズやソウルなどの要素も持ち込まれていて、音楽的要素が豊富にある。それが原因なのか、抽象に流れている印象がある。今作でもラストの’…And We All Waved Goodbye To The Moon’などにその気配はあるけれど、全体通して一本筋が通っている感覚が、非常に好ましい。Acousticな音色と、Electronicな質感の混合が生み出すノスタルジア。Warmyなのに、見えてくる景色はなぜか冷たい。孤独な心にやさしく寄りそう、密やかなエモーション(言っている意味が我ながらよく分からないが、そんなイメージです)。
ハイライトはM-3の’THIS IS THE HEARTLAND’だろう。作品中でもっとも叙情的であるように思う。メロディにしても歌唱にしても、非常に感情的だ。きらびやかなシンセの中を流れる力強く感傷的なメロディは、耳を引き、胸を打つ。続く’YOURS’も、(歌詞の内容は分からないながら)内省的な調子と、スローダウンした曲調は、ある意味ではエモーショナル。窓際から眺める庭の雨、とでもいったようなメランコリックなイメージが浮き上がってくる。ラストはBleepyなシンセフレーズが特徴的なのだけれど、それと対決するように歌われるメロディ、歌声にはどこかハッピーな輝きがある。Electronicな作りなのに血の通ったパワーを感じるのは、やはりその歌声にある力のおかげだろうか。